2007年度 美術保育カリキュラム
(川西保育園)
2007年 4月 作成:原田 文明
【概要】
このカリキュラムは考えながら遊ぶ、遊びながら考えるという「遊ぶことと考えること」が一体となっているように考案されています。つまり、教育や学習という概念に対して「遊び」という概念を大切にし、その可能性を大いに肯定しています。遊びのなかでいろいろな失敗や楽しさを経験させること。もの事や出来事について考えることと観察力をつけ、子どもたちがのびのびとした表現ができること。また、造形遊びは難しいものではなく楽しい遊びであることを実感として理解させる、と同時に豊かな感性を育てることを目的としています。
ここでは「教える」ということよりも子どもたちと同じ気持ちになって「遊ぶ=学ぶ」関係をつくること。遊びのなかで子どもたちから豊かな発想が出てくるのと同じように指導者はその役割を果たし、子どもたちの興味を誘いながらアプローチすることが大切です。
新学期に入ってはじめに、子どもたちの緊張や不安を解消して信頼できる関係になることに力点をおきます。
4月から10月までは絵画を中心にして、絵の具やクレヨンなど道具の使い方や造形遊びの面白さ楽しさを印象づけ、10月までに一応その試みを完了します。
この頃までに、子どもたちは絵の具やクレヨンなどの使い方に慣れ、造形遊びが身近なものとして少しずつ理解されます。例えば「こうしなければいけない」というのではなく、いろいろな方法があってどういう絵(下手な絵、上手な絵、へんな絵)でも、最後まで本気で、根気よく、思い切って取り組んだものは素晴らしい作品になることが実感できるようになるでしょう。そして、これまで消極的だった子どもは美術に対する苦手意識がなくなり、下手であるという不安感や失敗したらどうしよう、という恐怖感がなくなり造形遊びに対する気持ちをリラックスするようにします。同時に、造形遊びで言動が活発になり指導者との信頼関係が確立されます。
11月から3月までは難度の高いものを含めて幅のある取り組みをし、自信をつけることに力点をおいています。
このカリキュラムは「遊び」の可能性を重視し、美術保育として新しい可能性を求めていてかなり高度の要求をしているようにみえるかもしれませんが、基本的には楽しく造形遊びができること。また、失敗をさせまいとするのではなく失敗を含めて遊びのなかから新しい発見が出来ることを大切に考えています。
最後に、このカリキュラムの実践において、保育士は単に講師に任せるのではなく、その内容を充分に理解し積極的に取り組むことで、子どもたちと一緒に遊ぶ(学ぶ)面白さを経験すると同時に美術保育の新しい発見の場になることを願っています。
【年間カリキュラム】
4月/17、24
フロッタージュ
クシや落ち葉のほか、いろいろなものを鉛筆やクレヨンで「擦り出し」して楽しもう。
戸外に出てタイルや柱、マンホールなど大きなモノまで写してあそんでみよう。
■ 上質紙(B4)、クレヨン、鉛筆、落ち葉、クシなど
5月/8、15、22、29
粘土遊び
比較的、操作(作業)のしやすい油粘土を用いて、平面的な造形とは違った立体遊びを楽しむ。
そして、空間的(立体的)な造形に関心をさそい、また平面的な絵画の不得手な子どもの興味をひきだす[スナップ撮影]
■ デジタルカメラ、粘土、粘土べラ
点と線の絵
自分がもっている絵の具や筆の基本的な使い方について説明する。
@絵の具を出すときの注意 A筆を洗うときの注意 Bバケツに水を入れる時の注意
C筆を使うときの注意 D絵の具を混ぜるときの注意
造形要素の基本となる点と線の絵を描くことで道具に慣れること。
出来上がった作品について子どもたちの特徴=個性を表現の問題と合わせて考えてみる。
■ 画用紙/八切/2枚、絵の具、パレット、筆
6月/5、12、19、26
観察画(見たまま)を描こう
自分の好きなものを思い出して描く絵画とは異なり、その場に置いてあるものをできるだけ良く観察して描いてみる。見たままを画用紙いっぱいに大きく描く。
上手、下手、を気にしないで、集中して細かなところまでよく見て描くことで個性と絵について考えてみる。
■ 鉛筆、画用紙四ツ切、絵の具、クレヨン(キャベツ、やかん、ペットボトル、消火器)
糸ひき絵とデカルコマニー
子どもたちと指導者の楽しい関係をつくることを目的として、糸ひき絵とデカルコマニーで簡単な絵の具遊びを楽しむ。
作為的に描く作品に対して偶然性による形を楽しむ。また、できた形から具体的なものへと連想し豊かな発想と展開が出来るようアプローチする。
■ ポスターカラー(赤、青、緑、黒、黄を園で準備する)、画用紙の八切を2
枚/人、たこ糸(1本)
7月/3、10、17、24
紙染め
前回の観察画のような作為的な作品つくりではなく、園の仲間や先生になれることに目的をおき、偶然的にできるきれいな図と色を楽しむ。
折り方のバリエ−ションによって様々な模様ができるということを考えながら遊ぶことで、指導者と子どもたちのよりよい信頼関係をつくる。
■ Pカラー(赤、青、黒、黄、緑)、和紙(八ツ切位のもの)、古新聞
クロッキー
クレヨン、絵の具に少しなれたところで、今回は物を良く観察して描くということに力点を置きます。
身のまわりのものや4人グループになって交替でモデルを描く。友だちを良く観察して描いていくことで積極的に友だちの輪を拡げる。
■ 上質紙5枚/人、鉛筆、消しゴム、パステル
8月/7、21
石ころの顔
錦川の河原で拾ってきた手のひらくらいの石をジッと見つめる。色模様や形の面白さを考え目や鼻を描いて人の顔をつくる。
ねじれた顔、しわしわの顔、曲がった顔、ぶつぶつの顔など、その石がなりたがっている顔を考えてみよう。
■ 絵の具、ヘアドライヤー1個、石ころ(2個/人)、筆など
9月/4、18
合作
活動的なこの時期には運動会の練習と同じようにみんなで制作する。みんなで一つのものをつくるということを絵画で取り組む。そして協力することの理解と物理的に大きな作品を作ることでこれまでと違った体験をする。
同時に活発なコミュニケーションの場が実現できる。
■ 絵の具、クレヨン、大画用紙 10 枚
10月/9、23
スチレン版画(作版から完成まで)
版画という技法による絵を実践し、これまでの絵画との違いを経験させる。
原画を考え、版をつくり、刷りあげるという絵画的要素と工作的要素が重なり合った版画について考え、面白い遊びであることを印象づける。
■ スチレン板(3ミリ)、20×25センチ位を各自1枚、油性マジック、上質紙、バレン3個、版画インク、ローラー3個
11月/6、13、20、27
置き絵
木の実や落ち葉、石ころやガラクタなどを集めておいて、それらを配置して何かの生き物などをつくりデジカメで撮影する。A4上質紙にプリントして完成する。
また、簡単なお話を考えてみる。(参考:田島征三の木の実アート)
■ 落ち葉や木の実などのガラクタ、デジタルカメラ、上質紙(A4)
コラージュ
自分の描いた絵の空間と雑誌から切り取った写真の空間を合成してみる。そして、出来上がった不思議な絵の面白さについてみんなで一緒に考える。
■ はさみ、のり、画用紙4つ切り、雑誌、カタログ、グラビアなど
12月/4、11、18、25
紙粘土造形(壁掛け、置き物):年長年中別に取り組む
これまで油粘土で立体造形を試みているので比較的、立体的な把握ができる。ここでは、これまで取り組んできた油粘土と違って、保存性のある紙粘土で卒園の思い出になるような作品をつくる。(壁掛け、置物)
■ 紙粘土(要:検討)、竹串、爪楊枝、アルミ針金、クリップ
缶ポックリ
活動的なこの時期にはみんなで遊び道具をつくる。自分がつくったもので思い切り壊れるまで遊ぶ。
はじめての役立つ遊び道具の制作。少し大きくなった感じで遊べる缶ぽっくりを先生と一緒になって楽しむ(スナップ撮影)
■ デジタルカメラ、ペンチ、かなづち2個、ビニールロープ:1.4m、空缶(2個/人)、針金20番:50cm、釘5cm/3本
1月/15、22
ビニール凧
昨年のビニール画に変えて、今度はグニャグニャしてあがるビニール凧をつくって凧あげをする。自分よりもはるかに高く、遠くへ飛ばすことで自信をつける。
これまでに描いてきた絵の具やクレヨンの絵とは違うデザイン的な制作を昨年のビニール画に変えて楽しもう。
■ 透明ビニール(型取りしたものを用意)、竹ひご(2ミリ、45センチ)、油性マジックセット、セロテープ、両面テープ、たこ糸(1本/人)
2月/5、12、19、26
ジグゾーパズル
20cm平方のベニヤ板と同じ大きさの厚紙を用意しておく。適当な大きさに厚紙をくり抜いて片方に模様画を描き、もう一方をベニヤに張りつける。日常に役立つ道具(おもちゃ)を作ることで興味を引きだし、自信を持たせる。
■ ベニヤ板(20cm角)、厚紙、両面テープ、油性マジック、カッター、カッ
ター板
お話の絵
お話を絵にしてみよう。
本のお話を聞いていると頭に絵が浮かんでくる。
次から次へと浮かんでくる絵で面白いと思うところだけを描く。
思い切って大きく描く。
■ 画用紙(四切)、絵の具、クレヨン、その他
3月/4、18
モビール
動く彫刻(空間)作品・モビールをつくってみよう。
今回はいろいろな虫を描いてバランスで動く虫モビールを部屋に
飾ってみよう。
■
丸棒(径1cm、1m)、竹ひご(3ミリ、1m)、たこ糸、セロテープ、マー
カー、クレヨン
美術保育と年間カリキュラムについて
カリキュラムの内容については、前年度と比較して多少の変化をつけていますが基本的に大きく変わることはありません。
年度ごとに教科書を変える必要がないように基本的なテキストは決まってくるものです。それは、対象となる子どもが変わるからということだけでなく、子どもは螺旋階段をあがるように経験を積み重ねて成長すると思われるからです。だから、子どもは何回でもかくれんぼや同じ絵本を楽しむことが出来るのです。
例えば、前年度取り組んだ課題と同じでも違った経験をすることが大いにあるわけで、このことは子どもにかかわる点でたいへん重要なことと言えましょう。情報を先取りして目新しいことを数多く経験させることにさほど大きな意味があるとは思えません。むしろ、螺旋的にあがっていくズレを考えることが指導者にとって重要な意味がありますので、この点をしっかり取り組んでいくことにしたいと思います。